一人一人の音

                     1998.7

不思議なもので、同じピアノでも、弾く人によってまったく違う音がします。
やせた音、太った音、優しい音、はっきりした音・・・
ピアノという楽器は、鍵盤を押すことによって中のハンマーがピアノ線を叩いて
音が出るわけですから、原理からいうと打鍵のスピードが音を変えるだけのはずです。
そうそう異なる音が出るわけない、と侮るなかれ。
音の個性は、初めてピアノに向かった時から始まっています。
もちろん弾き初めのころの音はダイヤの原石のようなもので、一つ一つ磨いて
練り上げていかなくてはなりません。ピアノの先生は、その生徒の音を活かしながら、
指のかたち・腕の使い方から力の抜き方まで、時間をかけてこつこつと指導していきます。
生徒それぞれの音の雰囲気・表情は、永年弾き続けていてもそれなりに残り、
育っていって、その人らしい音楽を創り上げていくのです。
一人一人の音色が違うから面白い、いろんな曲を弾く上でさまざまな音色を見つけて
弾き分けていくことも楽しい、ピアノは本当に奥行きのあるすてきな楽器です。

残念ながら、電子楽器はそんな個性に反応してはくれません。
電気が流れる瞬間に音が出る楽器では、響きの違いは生まれないのです。
力が入ってかちんこちんになっている打鍵と、うまく力を抜いた打鍵の違いも
音に表してはくれません。昨今の住宅事情ではピアノを置くのはとても無理、
まだ始めたばかりの子どもに高価なピアノを買ってあげてもどうなることやら・・・
という状況はよくわかります。でも、贅沢を言えばきりがありませんが、
小さい子の敏感な耳だからこそ、ピアノの微妙な音色を聞かせてあげたい、
タッチの違いを実感させてあげたいというのが、多くのピアノの先生の願いでしょう。
趣味で弾くピアノなら、1台あれば一生モノです。ピアノのおけいこに通う
子どもだけの楽器で、その子がイヤになったら粗大ゴミになってしまうのではなく、
家族全員で楽しめる余裕があればいいのに。ピアノを囲んでそんな家族の輪ができる
レッスンを展開できればいいなあ、と思っています。
一人一人の音色・一人一人の心の声を大切にして。

               事後報告         2002.12.17

新たに購入するとき、電子楽器でないほんものの「ピアノ」を選ぶ家庭は
さらに減ってきました。私もピアノをお奨めはしますが、強制はできません。
でも、誕生日のプレゼントに、ゲームソフトではなく「ピアノを買ってよ」と
お願いする男の子がいるように、ピアノの音の魅力は子どもの心にも響いています。
やはり、「子どもに買い与える」のじゃなく「家族の楽しみを増やす」というふうに
考えていただけるような音楽との関わり、レッスンの進め方が必要な気がします。


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