打鍵の方法

先日、とあるピアノの先生のホームページで、
「昔ながらの打鍵だと、指を高くあげたところから鍵盤に落とすが、今の主流は
指を鍵盤につけたところから打鍵をするかたちで、私もこれを採用しています。」
という内容の文章に出会いました。
考えてみると、私は、もちろん自分が正しいと思うかたちを教えようと努力していますが、
その歴史的背景や時代の流れ、それにその正当性など、深く考えたことがありませんでした。

ちなみに、今現在の私は、手のひらを丸くして自然にかまえた状態から、
打鍵する指をむりやり上にあげないほうがよいと思っていますし、
そのように指導しています。

  

私の中学生時代の先生は、とにかく高くあげてまっすぐ落とすことを教えてくださいました。
ただ、「叩く」のではなく「重さをかける」のだということも、繰り返しおっしゃいました。
指だけではなく、必要に応じて前腕、腕全体、そして上半身の重さを。
ついでに言うと、ピアノの音をならすということは、音を出すときより、そのあと、どのように
指を離すかが大切ということもポイントで、よく「指をはがすようにあげる」とも話されました。
これが、レガートにつながるということで、つまり、次の音が鳴るまでは完全に鍵盤を
押さえたままにして、音の切れ目をなくすということです。
あと、鳴らした音を切るまでその音に対して意識を持ち続けることが重要でもあります。

同時進行でお世話になっていた受験時代の先生も、指をしっかりあげる、
指の独立をはかることが重要、というご指導でした。
と考えると、習ったのは、基本的には昔ながらの打鍵だったようです。

実際の演奏に際して、指を高くあげ(そのとき弾いている音があれば、その指との高低を
できるだけたくさん作り)高い位置から指をたたき落とす、というような打鍵は今でも
よく見かけます。第1関節が常に反っている(関節の曲がる方向と反対に曲がって見える)
状態で弾いている人もしばしばいらっしゃいます。

それが、間違っているとは思いませんが、細かくコントロールするのが困難なのではないかと
思います。高いところから空を切っている(?)状態のスピードや勢いを調節するのは
たいへんではないかと。
以前レッスンを受けた、アンリエット・ピュイグ・ロジェ先生(仏)は、
たいそう高齢でしたが、ものすごく鍛えられた指をしていて、ピアノに触った状態から
弾き始める。従って、常に手のかたちは丸い。そして、そこから百万変化の音を
自由自在に操っていらっしゃいました。

本当に鍵盤に触ったところからだと力がかけにくいので、実際にはもちろん指を上げますが、
手のひらが反り返るほど上げたりはせず、また指を上げる際に力は入れない。
基本的には、鍵盤を叩くのではなく、鍵盤に触れたところからは鍵盤をできるだけ
下まできっちり落とすのだというふうに指導しています。
ついでに、鍵盤に対して指はできるだけ平行に(まっすぐ)かまえて弾く。
横からとか、手を広げたまま(もちろん、和音は別問題)斜めにかまえたりしないこと。

 

ハノンや「ピアノのテクニック」などを学習するとき、1番重要な目的は、
「指の独立」だと考えています。
私は、おおよそ小学校の中学年くらいからハノンを使い始めますが、1回目には
(60番まで進んだら2回目に突入します)速度は要求しません。
特に3,4,5の指をそれぞれ自由に動かすようにすること。
なので、とにかく「まっすぐ、下まで、きちんと」を脱力しながら、
自分で確認できるくらいの速さで弾いてもらっています。
リズム替えも、たぶん生徒がいやになるまで指示します。
可能な限りゆっくり弾いてもらいたいのですが、「ゆっくり」と言われるのを
いやがる子も多いので、「スローモーションで、先生によくわかるように
聞かせてちょうだい」とお願いします。これは、普通の曲でもよく使う言葉です。

私は、先の「できるだけ高く指をあげて、そこからしっかり打鍵する」という方法が、
1本ずつの指を分離させしっかりした指にするために大変有効な手段として、
ここで活かされるのではないか、と思っています。
つまり、実際に曲を弾くときにはそのような弾き方はしないけれど、
トレーニングの段階では、そうやって指を使うことが必要だということです。
特にハノンやツェルニーを練習するときには、指をたくさん動かしながら弾くこと
(もちろん、できる限り脱力しながら)が効果的ではないでしょうか。

超スローモーションでフォルテで弾くときに、指をしっかり上げて、できる限りの力で
鍵盤を下まで叩きつけ、指のかたちを崩さずに、かつ弾いた次の瞬間には脱力できるよう
気をつければ、かなり効果が高いような気がします。
あ、これは、弾き終わったときに第1関節がちゃんと丸くなっている場合です。
第1関節を引っ込めて、そこから手のひらごと鍵盤を押して音を出しているのでは、
指の力もつかないし、独立も進みません。指の力を使って弾いていないからです。
そういう意味では、こういう練習はある程度成長して、手もしっかりしてきてから
始める方がよいと思います。無理に大きな音を要求すると、どうしても指ではなく
手のひらから押すかたちで弾かざるをえないからです。

3と4の指の音が重なって濁ってしまうのを聞き分けられない速さでだあっと
弾いても、指の独立ははかれません。小さい子に、無理くり速いテンポを要求すると、
音だんごを作りながらくちゃくちゃっと弾く癖と、自分の音を聞かない習慣がついてしまう
気がして、私は、低学年までの子にはあまり速く弾かせません。
ついでに鍵盤をちゃんと下まで弾く感覚を身につけてほしいので、うんと小さな音も
要求しません。
こう考えると、強弱も緩急もなしに弾かせているようにも思えますが、
曲のイメージだけは、いっぱい持ってもらうようにと心がけています。(これは余談です。)

電子楽器で練習している子に弊害があるとすれば、ここのあたりだとも思います。
電子楽器は、とにかく脱力してようとしていまいと、鍵盤が下がりさえすれば
音が出てしまうのです。そこに固い音、つぶれた音、と〜んと響く音、透き通った音の
違いがないのです。だから、先生がレッスンで注意した指のかたちとか、力のかけかた・
ぬきかたを音色で判断することができません。ほめられたときの体の感覚を覚えているしか
ないのです。おとなはともかく、子どもには難しい作業です。
もちろん、生まれつき自然に力を抜いてきれいなかたちで弾ける子がたまにいて、
そういう子なら楽器の種類は関係ないのですが、こちこちの手で弾く子の場合、
電子楽器だと改善に時間がかかります。

ついでに、下までまっすぐきちんと鍵盤を落とす、という感覚も電子楽器には
少ないので、表面を触って音が出たところで弾くのをやめる、という打鍵に
なりやすい気がします。そのままでは、速いパッセージがやはり「音だんご」です。

理想的には、小さい頃こそ本物のピアノで練習して、弾き方がある程度身についたら、
都合によっては電子楽器で練習するもよし、と思っているのですが、
現実は逆のケースのほうが多く、頭の痛いところです。

打鍵の方法に関する考え方はいろいろで、どれが正しいとか間違いとかではなく、
最終的に弾きたい曲を表現するのに必要な技量が身につけばよいわけです。
私自身も、未だ思案中です。
例えば、今現在はハノンを導入するのがかなり遅く、もう少し早い時期から
ハノンのような内容をレッスンに盛り込みたいなとは思っているのですが、
「こどものハノン」のようなものを使うのも考えてしまうし、
「ピアノのテクニック」は曲の長さはいいけれど、生きては帰れない終わりのない
迷路のようにず〜っと何百曲も(おおげさ)続いているのはどうかなあ、という気がします。
じゃあ自分でフィナーレ(楽譜ソフト)でちょっとした練習課題をつくれないかな、
とも思ったり、いろいろ考えあぐねています。

おけいこいろいろへ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送