BOOKS 1

 

しゃべれどもしゃべれども(佐藤 多佳子著 新潮文庫)
この著者の「イグアナ君のおじゃまな毎日」は、長男も一気に読んだなかなか楽しい本でした。
「しゃべれどもしゃべれども」は、実力も人気も今ひとつの落語家が、喋るのが苦手な4人に
落語を教えながら、自らも成長していくという、まあこう書けばすごくまじめな話なんですが、
ものすごく面白い。でもって、絶対泣けます!
私は、大阪弁で阪神の熱狂的なファンで(これがお気に入りの理由か?)、クラスのボスに
いじめられている生意気な小学生に思い切り肩入れしてしまいました。主人公の落語に対する
想いの深さ、ひたむきな姿勢も好感が持てました。最近のおススメNo.1です。

 

トリエステの坂道(須賀 敦子 新潮文庫〕
須賀敦子という人には「ユルスナルの靴」という本で出合いました。(ユルスナルは私の
高校時代からのスペシャルですが、こちらはまたあとで。)須賀さんは、日本でミッション
スクールを出てイタリアに留学し、苦学しながら大学を出て書店に勤めるイタリアの男性と結婚して、
相手が数年で亡くなり、帰国後上智大学で教鞭をとっていた人です。この本では、主に自分の
結婚相手とその家族について、いくつかのエッセイで綴っています。ご主人はインテリですが、
その家族はいわゆる無産階級、しかもさまざまな不幸を経験し、どちらかというとその中でも
つましい生活を強いられています。須賀さんは、ご主人の死後日本に帰国してからもその家族と関わり
続け、イタリアに行く度に会いに行きます。彼女自身の生まれ育ちから見ると、必ずしも釣り合いの
とれているとは言えないその一族と、決して見下すことなく、暖かくつき合い続けるのです。
須賀さんの視点は極めて素直です。自分から見てびっくりすることには素直に驚く、けれどもそこに
哀れみとか蔑視はありません。それぞれにひたむきに生きている一族を、ご主人がいなくても
もう一つの家族として、自分が日本人であるという差異を超えて大切なものとして見つめ続ける、
その清々しい生き方にはっとさせられました。
須賀さんは、翻訳はあるものの、50才を過ぎて初めて「ミラノ 霧の風景」というエッセイを
書きました。それまで自分の言葉で書きたい、と切望しながら年を重ね、 ほとばしるように
何冊かのイタリアにまつわる エッセイを書き、そして1998年に70才を目前に 亡くなりました。
書くこと・文体への想いは 「トリエステの坂道」にも記されています。
彼女のエッセイは、暖かくしなやかな文章です。決して奢らず、わかりやすい言葉で綴られた
著作に触れるにつけ、着手しながら未完に終わった小説が残念でなりません。

 

ヴィオリーニ兄弟「倒錯の森」所収(J.D.サリンジャー)
たぶん、この作品がこれを知らないみなさんの目に触れることはないでしょう。
荒地出版社というところでサリンジャーの全集を出していますが、まもなく絶版に
なってしまいそうです。サリンジャーといえば「ライ麦畑でつかまえて」、よくても
「ナインストーリーズ」か「フラニーとズーイ(ゾーイ)」しか流通しておりません。
私は、「倒錯の森」を角川文庫で持っています。なにせ、昭和49年の本です。
短編集ですが、その中の「ヴィオリーニ兄弟」が私は好きです。
簡潔にいうと、兄の作曲のために小説の夢を捨てて作詞をしつつ早逝した弟が
書きためていた小説を、時を経て読んだ兄が、弟の本当の才能に気がつくという
話です。剥ぎとりマッチの内側に書きためた弟の小説の断片を読んだ兄は
こう言います。「あれの書いたものを読んだら、生まれてはじめて音楽を聞いた
ような気持ちになったからです。」
もし、どうしても読んでみたい人がいらしたら、教えてね。お貸ししますから。
ついでに、世に言う名作「ライ麦畑でつかまえて」も、もちろん秀作なので、
よかったら読んでみてください。
それにしても、サリンジャーはどうしたのでしょう。マスコミを嫌い、人を嫌い、
高い塀の向こうに消えていってしまったあの作家は?
もう死んじゃったのかなあ。(生きていても83才ですものね)
サリンジャーのこととなると、平常心を失う私です。個人的には、
難解な世界に突入する後期の作品より、荒削りな初期の短編が好きです。

 

「回廊にて」(辻 邦生著 新潮文庫など)
辻邦生の作品はわりと好きですが、処女作であるこの小説は特にお気に入りです。
才能がありながらもわずかな作品しか残さず自殺してしまった、ロシア人の画家
マーシャの心の物語です。
処女作というのは、作品としては改善の余地がたくさんあるかもしれないけれど、
書きたいものがあってそれをひたすら追求して書いた、というひたむきさが
あると思います。ある意味では、その後の作品は、それでは書き足りないものを
補おうとしてテーマを繰り返しているようなものかもしれない。
そういう意味で、瑞々しくて美しい作品です。

 

「火星年代記」(ブラッドベリ著 早川文庫)
これは、本当に美しくてかなしい物語です。SFですが、火星という世界の
叙情詩でもあります。人間が火星に到達し、火星人を滅ぼし(戦争をしたわけでもなく、
銃を使ったわけでもなく、火星人は静かに滅んでいきます)、その火星に新たな
火星人として生きながらえる・・・いくつものエピソードを時代順に集めた物語ですが、
私には音のない静かな静かな惑星を思わせます。
ブラッドベリという人の小説は、たぶんだいたい読みました。もっと暖かい
おひさまのような「たんぽぽのお酒」(晶文社)なども好きです。
「華氏451度」は映画にもなっています。本当に小さいころのマーク・レスターが
出てきます。本を禁止された世界の物語です。(私には、耐えきれそうもない)
ブラッドベリはSFと言えば、宇宙戦争、というイメージを払拭してくれた
作家です。

「クローディアの秘密」(カニグズバーグ著 岩波少年文庫)
カニグズバーグという女流作家は、アメリカの少年少女向けの作家として
たいへん有名な人です。でも、わたしがこの作品を読んだのは、おとなになってから
でした。それが、とても残念です。彼女は、本作品と「魔女ジェニファとわたし」の2作品を
同時に発表し、この2作品が児童文学のニューベリー賞を争うという、まれにみる展開に
なったそうです。私は、「魔女ジェニ・・」よりも「クローディア・・」をお奨めします。
あらすじを話すと、クローディアが弟ジェイミーをそそのかして一緒に家出をします。
二人はなんと、メトロポリタン美術館に住み着きます。自分の中の、言葉にできない
ものを捜して家を出たクローディアが最後に辿り着いたのは・・・
思春期の心の揺れをこんなに的確に、しかもユーモラスに捉えた作品はなかなかないのでは、
と思います。カニグズバーグの主人公はどの子もたいへん聡明な子で、そういう意味では
ちょっと鼻につくかもしれませんが、でも、この作品は本当になかなかなんですよ。
同じ作家の「ジョコンダ婦人の肖像」という作品も、私のマイベストかな。

ところで、NHKのみんなの歌(今は「大きな古時計」が大ヒットですが)で、一昔前、
大貫妙子さんの「メトロポリタン美術館」という曲が流れていたのを
ご存知ですか?私はこの曲が好きで、よく生徒と歌っていたのですが、先日、
「バイオリンのケース、トランペットのケース、トランク替わりにして出発だ」という
歌詞に、「これって『クローディアの秘密』の歌だ!」と突然気がつきました。
そう、クローディアとジェイミーはトランクを持って家出をしたらすぐばれてしまうので、
楽器のケースに着替えを詰め込んで家出するんです。この小説が好きだし、
あの歌も何度も歌っていたのに、何故なかなか気がつかなかったんでしょう?
この「メトロポリタン美術館」という曲は、彼女の「Coming Soon」というアルバムに
入っているらしいのですが、残念ながら見つけられません。小説を題材にした曲を
集めたアルバムらしくて、いつか聞いてみたいのです。
でも、「クローディアの秘密」を知っていたなんて、
大貫妙子さんもさすがだと思いませんか?

「豚の死なない日 正・続」(ロバート・ニュートン・ペック著 白水社)
この本については、別のところやいろいろで、もう何度もお奨めしたので気が引けたのですが、
でも、いいものはいい!と載せちゃいます。第1作は、何年か前の課題図書(高校生向き)
にもなり、お勉強ぽく「いい本」と思われるのが心外です。本当に感動的な本です。
シェーカー教徒の家族が貧しいながらに誠実に生きていて、その末っ子である主人公が、
父親の死に遭遇するまでが第1作で、父親亡き後、一家の主として借金を返しながら
奮闘するものの、力つきて農地を手放すまでが続編になっています。って書くと、
よけいお勉強っぽい感じになっちゃいますね。でも、つましく謙虚に生きる家族の姿が、
ことさらに悲劇的にでもなく描かれていて、一気に読める本です。
シェーカー教徒が「フリル」と呼ぶところの、生活に不必要な飾りを排除して、自分のできる
ことをひたむきに遂行する主人公にはかなり感じ入って、長男が中学に入るとき、
無理やり読ませてしまいました。(主人公も12才なので)
主人公が何よりもかわいがっていた豚が子供を産めないとわかって殺すとき、父親は
彼に手伝わせます。「これが大人になるということだ。これが、やらなければならない
ことをやるということだ。」と父親は言います。
「豚が死なない日」っていうのも、その意味がわかると、ものすごく厳しいタイトルです。
そうだな、ゲームやビデオやカード、贅沢三昧の日本の子どもに、一度は読んで
もらいたい本です。課題図書ではなくても。

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